どんな仕事があるか|6つの職種に分けて見る

「量子コンピューターの仕事」と聞くと、量子力学を研究する博士を思い浮かべる人が多いでしょう。けれども、いま公式の採用ページに出ている募集を読むと、装置を組み立てる人、制御用のソフトを書く人、顧客と共同研究をまとめる人、会社の法務や経理を担う人など、仕事はかなり広いことが分かります。

2026年11月5日時点で、当サイトには118件の求人が掲載されています(インターンの8件を含む)。次の表は、インターンを除く110件を職種ごとに分けたものです。職種の名前を押すと、その職種の求人の一覧に移ります。

職種どんな仕事か(当サイトの分類の説明)掲載中うち研究機関の公募
研究職(理論・基礎・研究開発)量子アルゴリズム・誤り訂正・量子化学などの理論や基礎研究、量子中継器などの研究開発で論文や特許を出す研究職。博士号を前提にする募集が多い37件22件
事業開発・営業・PM企業や官公庁との共同研究・提携づくり、営業、マーケティング、プロダクト/プロジェクトの管理、顧客に装置を届けて支える仕事など22件1件
量子ハードウェア・装置量子ビットや量子光源など装置そのものの実験・設計、レーザー・光学・真空、FPGA や電子回路の制御装置、量子センサの開発など22件8件
コーポレート人事・採用、経理、財務、法務、経営企画、広報など、量子の会社を支える仕事16件3件
量子ソフト・アルゴリズム開発量子計算や数理最適化のソフトウェア、SDK、コンパイラ、クラウド基盤、アプリケーションを作る仕事10件0件
オープンポジション(随時応募)職種を決めずに受け付けている随時応募の枠。具体的な職種は応募後の面談で決まる3件0件

2026年11月5日時点で量子ジョブに掲載中の求人の集計(各社と研究機関の公式の採用ページから取得)。業界全体の統計ではありません。インターンは職種の表に入れていません。

掲載中の求人は、会社と研究機関の募集が混ざっています。インターンを除く求人のうち、研究機関の公募は34件、民間企業は76件です。ですから、この表は「業界の職種の割合」ではなく、「いま公式の採用ページで読める募集の内訳」と考えてください。年収の幅や月額の書き方は量子コンピューターの仕事の年収で説明しています。この記事では、仕事の中身と、求められる技能を見ていきます。

必須条件に出てくる技能の集計

募集要項の「必須条件」の欄に、どんな言葉が出てくるかを数えました。必須条件の欄を取得できた73件が対象です。欄が空の求人(24件)、インターン、欄が「専門領域」の一覧である Qubitcore は入っていません。

必須条件に出てくる語全体ハードウェアソフト研究事業開発コーポレート
必須条件の欄を取得できた求人73件15件7件26件14件11件
博士号(または相当の学位・取得見込み)23件5件0件18件0件0件
修士号5件3件0件0件2件0件
「量子」の語(専門知識・経験・基礎知識など)27件3件2件17件3件2件
物理学15件3件0件9件3件0件
光学・レーザー14件7件0件7件0件0件
制御(フィードバック制御・制御系)8件3件0件4件1件0件
電気・電子回路・組み込み(FPGA を含む)8件2件2件4件0件0件
機械設計・CAD6件1件0件4件1件0件
Python11件0件6件4件1件0件
C++ や Rust5件0件3件2件0件0件
数学・数値計算・最適化・アルゴリズム9件0件4件3件2件0件
クラウド・Linux・ネットワークなど IT 基盤4件1件2件1件0件0件
論文の執筆・査読・学会発表7件0件2件3件2件0件
英語16件2件1件3件7件3件
日本語(ビジネスレベルなど)13件2件0件5件6件0件
「○年以上」など経験の年数17件4件2件0件6件5件

2026年11月5日時点。必須条件の欄を取得できた73件(インターンと、欄が「専門領域」の一覧である Qubitcore を除く)で、語を機械的に数えた目安です。1件が複数の行に入ります。「オープンポジション」の求人は列に出していません。英語の募集は欄が途中で切れている場合があります。

数字から読み取れることを3つ挙げます。

  1. 博士号に触れる求人は23件で、全体の約32%です。研究の列では26件中18件です。博士号に触れることと、博士号が必須であることは同じではありません。
  2. 「量子」の語が必須条件に出てくる求人は27件です。これは「量子の経験が必須」という意味ではありません。「量子計算の基礎的な知識、あるいはそれに対する学習意欲」のように、意欲を条件にした書き方や、「量子分野の実績は必須でない」という断り書きも数えているからです。
  3. 出てくる語は職種ごとに違います。2026年11月5日時点の表では、ハードウェアの光学・レーザーは15件中7件、ソフトの Python は7件中6件、事業開発の英語は14件中7件です。

この集計は、当サイトに掲載中の求人だけの数字です。業界全体で「何%の会社が求めている」という意味には使えません。

国は人材についてどう言っているか|経産省と文科省の資料

量子の人材は、国の資料でも課題として扱われています。2つの一次資料で確かめました。どちらも、国の方針の途中経過です。文部科学省の資料には、令和8年度に量子技術の3つの戦略を統合し、抜本的に見直す予定が書かれています(文部科学省「量子技術に関する政策動向について」2026年1月、スライド番号5)。人材の方針も、見直しの後に変わる可能性があります。

  • 経済産業省「量子コンピュータ政策の今後の方向性」(2026年7月8日、イノベーション小委員会 資料4-2)。人材の節(16ページ)は、基礎研究から製品化まで、量子コンピューターに関わる人材が世界的に不足しているとしています。そのうえで、G-QuAT などの量子拠点での実地教育を中心に、大学などと連携して、産業界でも活躍できる博士人材を育てる事業を実施するとしています。事例として、修士・博士一貫の学位プログラムを前提に、産総研 G-QuAT などの拠点と大学が連携し、学生を積極的に雇用しながら育てる取り組みを挙げています(資料4-2(PDF))。
  • 文部科学省「量子技術に関する政策動向について」(2026年1月22日、第35回量子科学技術委員会 資料5)。量子コンピューターの研究開発の今後の方向性として、産業化を見据えて複数の分野に長けた人材と、次世代の研究開発を担う人材の育成が急務だとしています(スライド番号19)。令和8年度の「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」の人材育成では、高校生や高専生へのプログラムと、学生に量子分野の「出口」を示すプログラムを予定しています(スライド番号21)。

ここから、国が博士人材だけでなく、高専や高校から産業界の人材まで、入口を広げようとしていると読めます(編集部の読み取りです)。その一方で、文部科学省の資料(スライド番号21)は、令和8年度の「量子人材の活躍機会拡大プログラム」の目的を、企業による量子人材の雇用を促して「出口」を広げ、学生や若手が安心して量子分野を志せる環境を整えることとしています。「出口」を広げる事業が置かれているのは、雇う先を増やすことが課題と見られているからだと読めます(編集部の読み取りです)。入口が広がることと、実際の求人の数が増えることは別の話なので、求人は公式の採用ページで確かめるのが確実です。

ハードウェアの仕事|極低温・マイクロ波・光

量子コンピューターを動かす装置を、組み立て、調整し、動かし続ける仕事です。量子ハードウェア・装置の求人は、掲載中で22件あります。方式(超伝導、中性原子、イオンなど)によって、扱う装置が違います。

公式の募集要項から、仕事の中身が分かる例を挙げます。

見出しの3つの言葉は、上の例のように、募集要項に実際に出てくる分野です。極低温は産総研の例にある希釈冷凍機や液体ヘリウムの扱い、マイクロ波は QuEL の公式の採用ページが、制御装置に必要な技術として FPGA やマイコンと並べて挙げている技術、光は Yaqumo や LQUOM のレーザー・光学の仕事です(QuEL の説明は公式の採用ページ)。多くの例が、物理や工学の知識に加えて、実験装置や基板を自分の手で扱う経験を問う書き方です。博士号を条件にしない求人もあり、技術職員やテクニカルスタッフの募集には、修士・大卒・高専卒を想定した書き方が見られます。

量子コンピューターの求人をチェック

求人一覧を見る

ソフト・アルゴリズムの仕事|量子に近い順に3層

ソフトの仕事は、量子コンピューターに近い順に、大きく3つの層に分けて見ると分かりやすくなります(この3つの分け方は編集部の整理です)。量子ソフト・アルゴリズム開発の求人は、掲載中で10件あります。経済産業省の資料(2026年7月8日、15ページ)も、ソフトウェアを、ユーザー側のアプリケーション層と、ハードウェア側のプラットフォーム層に分けています。前者は材料開発や創薬などの分野ごとにソフトを作る競争領域、後者は量子コンピューターの方式に依らない共通のソフトを整える協調領域と整理しています。国内では、アプリケーション層の開発を QunaSys と Quemix が進めていると名前を挙げています(資料4-2(PDF))。

  1. 装置を動かす制御ソフト。量子ビットを操作する信号を出す、装置に近い層です。 ソフトウェアエンジニアの必須条件は、古典コンピューターでのプロダクトコード(Verilog、modern C++、Python3 など)の開発経験で、量子コンピューターの知見は歓迎条件です(公式)。 Software Engineer (Quantum Control Systems)は、制御ソフトウェアのエンジニアの募集です。
  2. 量子計算のコンパイラ・アーキテクチャ。量子回路を、装置が実行できる命令に変える層です。 Compiler Engineer/コンパイラ・エンジニアの必須条件には、コンパイラやトランスパイラの開発経験(LLVM、MLIR。自作でも可)と、量子回路・量子アルゴリズムの基礎知識が並びます。 Software Engineer/ソフトウェア・エンジニア、誤り耐性量子計算(FTQC)アーキテクチャは、量子誤り訂正を含む量子計算の研究経験を必須としています。 【制御系ソフトウェアエンジニア(物理回路コンパイラ) 】革新的な量子コンピュータの開発|京都大学発ディープテックは、コンパイラ・DSL 設計の実務経験3年以上を必須としています。
  3. アプリケーション・最適化。量子計算や数理最適化で、顧客の課題を解く層です。 数理最適化エンジニアの必須条件は、組合せ最適化問題と解法の基礎知識、Python や C++ でのアルゴリズムの実装経験などです。 ソフトウェア・フルスタックエンジニアは、ソフトウェア開発経験3年以上、AWS・GCP・Azure の利用経験などを求める、Web 系のエンジニアの募集です。

表のとおり、Python は必須条件に出てくる求人が11件、C++ や Rust は5件です。量子のソフトというと特別な言語を想像しがちですが、募集要項に並ぶ技能は、Python、C++、コンパイラ、クラウド、数理最適化など、従来のソフトウェア開発と共通するものが目立ちます。量子の知識は、「基礎知識」や「学習意欲」として求められる書き方も見られます。

研究職と研究機関の公募

研究職は、量子アルゴリズム、誤り訂正、量子化学、量子通信などの理論や基礎研究に取り組み、論文や特許を出す仕事です。研究職の求人は掲載中で37件あります。民間企業の研究職(QunaSys、LQUOM、Jij、NEC、Qubitcore、QuEL、Nanofiber Quantum Technologies、Quemix)のほか、研究機関の公募があります。

現在、当サイトに公募が載っている研究機関は、理化学研究所 量子コンピュータ研究センター、産業技術総合研究所 G-QuAT、情報通信研究機構(NICT)、沖縄科学技術大学院大学(OIST)です。研究機関の公募は34件で、必須条件の欄を取得できた22件のうち16件が、博士号または相当の学位(取得見込みを含む)に触れています。OIST の公募は12件で、そのうちポスドク(博士号を取った後の任期つきの研究員)の募集が7件です。研究支援やプロジェクト管理の職も2件あります。

研究機関の公募は、任期つきの採用が多く、給与の書き方も機関ごとに違います。月額・本給・想定年収の違いは量子コンピューターの仕事の年収で整理しています。

量子以外の専門から入る仕事|半導体・組み込み・制御・光学

「量子を勉強していないと応募できないのでは」と考える人は多いでしょう。募集要項を読むと、量子の経験を必須にしていない求人があります。

必須条件の欄を取得できた73件のうち、「必須でない」「不問」などと断り書きがあるものは5件です。この数字は、欄の中に断り書きがある求人だけの数です。欄に書かれていなくても、量子の経験を求めない求人はあります。

公式の募集要項が「量子の経験は不要」と書く例

LQUOM の「研究開発職(メンバークラス)」の公式の募集要項には、「博士号・修士号は必須ではありません」「量子工学・量子通信の研究経験は必須ではありません」「光学の研究・実務経験も必須ではありません」と書かれています(公式の募集要項、2026年11月3日に確認)。対象の領域として、物理・実験物理、機械工学・機械設計、電気・電子工学、制御工学、エレクトロニクス、ソフトウェア・プログラミング、光学・レーザーなどが挙がっています。

仕事の内容も、CAD を使った機構設計、光学系の調整、アナログ回路のシミュレーション、電子工作、プログラミングによる実験の自動化など、得意な技術を1つ起点に研究開発へ参加する形で書かれています。入社後は仕事を通じて必要な知識を身につける方針(OJT)と説明されています。

これは1社の1つの募集の例です。「量子が未経験でも転職できる」と約束するものではありません。同じ会社の別の求人(リーダー候補の研究職など)は、研究経験を条件にしています。応募の前に、必須条件を自分の経験と照らして確かめてください。

事業開発・コーポレートの仕事

量子の会社も、会社として動くための仕事があります。事業開発・営業・PM の求人は22件、コーポレートの求人は16件です。事業開発・営業・PM は、企業や官公庁との共同研究・提携づくり、営業、プロダクトやプロジェクトの管理、顧客に装置を届けて支える仕事などです。

必須条件の中身は、技術職とは違います。経験の年数が出てくる求人は全体で17件で、事業開発とコーポレートの必須条件には、実務の経験が書かれています。

これらの求人は、量子の専門知識よりも、事業会社での実務経験を重く見る書き方です。一方で、英語や技術の理解を求める求人は、技術職に近い面があります。年収の幅や公表の有無は量子コンピューターの仕事の年収で集計しています。

新卒と博士の入口|就職・量子人材として入るには

「量子コンピューターの就職」を探す学生や、博士課程の人のために、入口を整理します。

まず、2026年11月5日時点で、当サイトの掲載中の求人の中に、「新卒」と書かれた求人は0件でした。新卒採用の枠は、各社の公式の採用ページで別に案内されている場合があるので、志望する会社の採用情報を直接確かめてください。当サイトで確かめられるのは、掲載中の求人に書かれた範囲です。

入口として確かめられたものは、次の4つです。

  1. インターン。掲載中の求人にインターンは8件あります。必須条件に書かれた学年や専門は、次の表のとおりです。
インターンの求人会社勤務地必須条件(Qubitcore は専門領域)に書かれた学年・専門
Research Scientistと共に研究を進めていただけるインターン募集!QunaSys東京都文京区量子情報科学・化学・物理学のいずれかの分野の専門的な知識/Python等で研究アイディアの検証のためのコーディングをする能力
【Internship】Quantum Algorithm ResearcherJij東京都港区必須条件の欄を取得できていません
【Internship】Quantum Computing Software EngineerJij東京都港区必須条件の欄を取得できていません
【Internship】Quantumプリセールス/事業開発サポートJij東京都港区必須条件の欄を取得できていません
Student Intern (Quantum)Qubitcore沖縄県(OIST との連携)専門領域: ソフトウェア開発、ハードウェア統合の制御ソフトウェア、FPGA・RFSoC
Research Intern (Hardware)Nanofiber Quantum Technologies東京都新宿区(早稲田)修士または博士課程の学生/細部に注意を払える組織力、口頭・文書のコミュニケーション力
Research Intern (Theory)Nanofiber Quantum Technologies東京都新宿区(早稲田)修士または博士課程の学生/物理・数学・計算機科学・工学などの背景と、量子計算・量子通信の基礎的な理解
インターンシップ・リサーチアルバイト(インターン・アルバイト)Quemix記載なし必須条件の欄を取得できていません

2026年11月5日時点で量子ジョブに掲載中の求人の集計(各社と研究機関の公式の採用ページから取得)。業界全体の統計ではありません。インターンは職種の表に入れていません。

  1. 博士号の取得見込みで応募できる研究職・公募。博士号の取得見込みでも応募できる募集があります(上の「研究職と研究機関の公募」の NICT・理研の例)。民間企業では、Nanofiber Quantum Technologies のResearch Scientist (Theory, FTQC/Quantum Information)が「着任前までに博士号を取得」していることを条件にしています(公式)。
  2. 学士・修士で入れる技術職・研究支援職。理研のテクニカルスタッフには、実験物理学分野の修士号か修士見込みを条件にした募集があります。理系大学卒業と同程度の知識を条件にした募集もあります。産総研 G-QuAT の技術職員は、高専・大学・大学院修士課程の卒業・修了と職務経験が応募資格です。
  3. 量子以外の専門を起点に入る職。前の節のとおり、FPGA、機構設計、ソフトウェア開発などの経験を起点に入る求人があります。

例: テクニカルスタッフⅠ募集 ナノフォトニック共振器量子電気力学研究チーム(26-1215)は、実験物理学分野の研究で修士号を取得した方、または採用日までに取得見込みの方が条件です。

国の資料では、経済産業省が修士・博士一貫の学位プログラムと量子拠点の連携を挙げ、文部科学省が令和8年度に高専・高校生向けのプログラムと、学生に量子分野の出口を示すプログラムを予定しています(前の「国は人材についてどう言っているか」の節)。これらは国の方針や予定で、就職先の求人そのものではありません。学生のうちにできることは、志望する会社や研究機関の最新の募集を確かめることと、必須条件に出てくる技能(Python、光学、制御、回路など)を、上の集計を参考に身につけることです。

学び方や資格の話は、別の記事(未経験から量子の仕事へ)にまとめる予定です。

次に見るページ|職種ごとの求人の一覧

気になる職種があれば、求人の一覧で、公式の採用ページから取得した最新の募集を見られます。

出典

確認日はすべて2026年11月3日です。求人の数字と必須条件は、各求人のページにある公式の採用ページを出典としています。